モバイル向け金融スーパーアプリ - どのような戦略を立てるべきか?どのようなセキュリティ対策を行うか?

新型コロナウイルス感染拡大前から、世界中の何百万人もの銀行の顧客はモバイルタッチポイントを利用していました。今回のパンデミックによってモバイルデバイスを使用したデジタルバンキングの流れが加速しただけと言えます。競争力を発揮しつつ消費者の要望に応えることを目指し、金融機関、ネット銀行、フィンテック企業は、顧客の獲得と維持のためにモバイルチャネルを通じてより便利なサービスを提供するようになってきています。
業界のリーダーたちは、従来の手法とは一線を画し、新しいクレジットカードやデビットカードの発行、新しい銀行口座の開設などの従来の金融サービスを超えた機能が提供できるモバイル向けスーパーアプリを導入することで、未開拓市場への参入や既存の顧客維持を図っています。KBC Mobile、Belfius Bank、 and PayPal傘下の Venmo がその例です。モバイルアプリのセキュリティ技術で保護されているため消費者からの信頼が高く、ブランドを新たな高みへと導くことができます。特に銀行は、不正防止・プライバシー・セキュリティに関する銀行の専門知識が顧客から信頼されているため、幅広いサービスの導入を促進するのに適した環境にあります。モバイル向け金融サービスアプリによる迅速・便利・安全な顧客サポートと相まって、顧客体験は新しい時代を迎えています。
今回のウェビナー「モバイル向け金融スーパーアプリ」では、Forrester社の主席アナリストであるPeter Wannemacher氏とカナダのビジネス開発銀行のモバイルアプリ・プロダクトマネジメント担当であるFrançois Guerette氏を迎えて、モバイル向けスーパーアプリがもたらす可能性と、不正やセキュリティ対策実施への躊躇を克服する方法について探りました。やはり、消費者は金融機関を信頼してお金を預けており、追加のサービスを金融機関に任せたいという傾向が強いことが分かります。金融サービスプロバイダーは、モバイル攻撃や金融不正行為への対策として実績のあるモバイルアプリのセキュリティ技術を実装していることで顧客と信頼関係があるため、安心してサービス拡充を推進できます。
今や不正リスクが理由で新たなサービスの検討を控える必要はありません。以下に、ウェビナーの概要をご紹介します。また、オンデマンド配信でウェビナーの全容をご覧いただけます。
金融スーパーアプリとは?
「スーパーアプリ」や「金融スーパーアプリ」という用語は、まだ比較的新しく業界内で定義されつつあります。ウェビナーでは、金融スーパーアプリの定義として3つの可能性ついて取り上げました。
1. 自社とサードパーティの技術を融合した戦略で、多くの商品やサービスを提供する: Wannemacher氏によると、スーパーアプリの利用可能な定義として、自社技術とサードパーティを統合して、顧客がさまざまな金融商品やサービスを購入・利用できる単一のエコシステムを構築するビジネス戦略が挙げられます。「商品・サービス・用途の多様性は非常に重要です」とWannemacher氏は言います。「共有されたエコシステムの中で顧客が幅広く多様な商品やサービスを利用している様子をイメージしてみてください」
2. 多くの商品やサービスへの入り口: スーパーアプリとは、顧客が購入・利用できる幅広い商品や金融サービスへのデジタルな入り口である、というコンセプトです。入り口はある1つのブランドで、つまり、そのブランドがその顧客と関係性を有しています。しかし、顧客はそこで他の多くのブランドや企業の商品やサービスが利用できます。
3. 日常的に使うアプリの完結的なエコシステム: 最後に挙げるスーパーアプリの定義は、Blackberryの創業者であるMike Lazaridis氏に触発されたものです。2010年、Lazaridis氏は消費者が日常的に使う多数のアプリで構成された完結的なエコシステムについて語りました。要するに、日常生活に必要なすべてのサービスをワンストップで提供することです。
金融スーパーアプリは金融サービスプロバイダーにどのようなメリットをもたらすのか?
スーパーアプリの技術は金融サービスと深い関連性があります。特にデジタル分野では、多くの新しい競争相手が市場に参入し、事業基盤や顧客ロイヤルティを奪い合っているからです。CNBC によると、「中国のWeChatやAliPay、インドのPaytm、シンガポールのGrab、インドネシアのGoTo、ベトナムのZalo、韓国のKakaoなど、すでに実用化され大きな人気を集めているスーパーアプリがあります」。

従来の金融機関が直面している大きな課題として、消費者に過剰な認知負荷を強いている点が挙げられます。金融スーパーアプリの用途の一つは、会計処理を容易に行えるようにすることです。Wannemacher氏が詳しく説明します。
「認知負荷とは、例えば、フォームの入力やラジオボタンのクリック、17もの画面の同時並行による処理などの手動の作業量を指します。1つの画面ですべての処理が実行できるようになることに意味があります。従来の方法では、時間もさることながら、知的・精神的な負荷がかかっています。処理完了までの所要時間を重視していくことが大切です」。
企業向け銀行業務は、さらに複雑さが増します。Forrester社の調査では、企業経営者は、事業運営や財務管理において平均して毎月10個以上の異なるアプリ、Webサイト、サービスを利用しているという結果になりました。例えば、別々に行われている業務が1つのエクスペリエンスに統合されれば、銀行や他の金融サービスプロバイダーは法人顧客の時間削減や市場におけるサービスの差別化を図ることができます。
金融スーパーアプリに顧客が利用できる新しい商品やサービスをどんどん追加することで、自社ブランドの成長、採用率の増加、顧客ロイヤルティの強化にもつながります。金融スーパーアプリを活用すれば、従来の銀行業務の枠を超えてライフスタイルのプラットフォームにまで踏み込むことが可能になりますが、総じて銀行や他の金融機関にはその必要がないと言えます。ライドへイリング、タクシー、フードデリバリーなどのサービスを確立するよりも、銀行は、会計処理を行う人が有益な資源を統合した単一のアプリの作成を検討すべきです。今、顧客が銀行を利用する理由を把握すること、それに基づいたプラットフォームを構築することです。
スーパーアプリの戦略を立案する際の課題点
どのような戦略を立案する場合も、金融スーパーアプリを検討する際には、金融機関が積極的に調査と分析、テストの繰り返しを行うこと、柔軟性を受け入れる姿勢を保つことが大切となります。スーパーアプリの戦略を策定する前に取り組むべき検討課題をご紹介します。
1)消費者の生活の中でどのような役割を果たしたいのか。まずは、ターゲット層を絞り込みます。例えば、地域密着をターゲットとするのか。ライフスタイル重視のアプローチを行っていくのか。次に、ターゲット層のデジタルジャーニーにどのような価値を提供していきたいのかを考えます。デジタルジャーニーのすべての段階で、望ましい結果への明確な見解と定義を示すことが重要です。
2)自社のユニークな価値は何か。自社のブランドまたはサービスが提供する価値についてユーザーは何を魅力的だと感じているのか。どうすれば、ユーザーが求めるものをより多く提供することができるのか。起業家に特化したサービスを提供しているカナダのビジネス開発銀行のFrançois Guerette氏は次のように説明しています。 「私たちは、業務知識が必ずしも適切なタイミングで起業家に届いているとは限らないことに気づきました。そこで、(モバイルアプリについて)より広い範囲でその可能性について検討し始めました。起業家が目標を達成するために、私たちは何ができるのか。アプリを使えば、より頻繁に顧客と接することができるのではないか、と考えるようになりました。しかし、結局のところ、私たちは顧客の事業運営をどのように支援できるかを模索しているのです」。
3)現実的に実現可能なことは何か。資源、人材、技術などの限界を見極める必要があります。業務への最大のハードルは何か。ブランド認知度、データインフラ、セキュリティ対策などに不備はないか。
4)どの既存のパートナーが活用できるのか。どのような新しいパートナーを探すべきか。
金融スーパーアプリのセキュリティ対策に最適なアプローチとは?
金融機関が自社のエコシステムを拡大するためにサービスを追加する際に注意すべき重要な点は、アタックサーフェス(攻撃対象領域)を増やしてしまうことです。それにより、サイバー攻撃者に利用される潜在的な脆弱性が増えてしまうのです。例えば、サーバー攻撃者は、金融機関が新機能を展開すると知れば、そのサービスをどのように利用するか戦略を練り始めるでしょう。そのため、サービスのセキュリティを担保することは非常に重要です。
セキュリティリスクを軽減するためには、経験豊富なセキュリティパートナー、特にモバイル向けスーパーアプリの専門家の協力が必要です。大多数の人々が日常的にモバイルで金融機関とやり取りを行いたいと考えているため、モバイルファースト志向のパートナーとの提携が不可欠です。
同時に、ユーザーエクスペリエンスを妨げないセキュリティを実装する必要があります。モバイルアプリは、潜在的に敵対する可能性のある環境下で実行されるという点でユニークであると言えます(セキュリティ更新プログラムを適用しているか、モバイルデバイスが脱獄しているかなど、ユーザーのモバイルデバイスのサイバー衛生を金融機関は管理できない)。そのため、モバイルアプリのセキュリティは、Webアプリケーションのセキュリティとは異なるアプローチをとることが必要となります。だからこそ、 モバイルアプリ保護サービス で顧客自身がアプリを保護することが必須なのです。
スーパーアプリの成長は今後も続く
革新的な金融機関は、より大きな価値を消費者に提供することで、より価値のある収益チャネルを生み出すことに成功しています。さらに多くの金融機関がユーザーへの関連サービスの拡充を努めているので、実験的な取り組みの促進で市場には多くのハイブリッドなバリエーションが存在するようになるでしょう。
その実験的な取り組みには価値があります。従来の銀行業務を超えるモバイルアプリの可能性が拡大することにより、金融サービスだけでなく、カードレスの給油、仮想通貨取引、路上駐車、バス乗車券の購入などのサードパーティのサービスが、ユーザーの利便性を損なうことなく、スーパーアプリで利用できるようになります。
では、どうすればモバイルバンキングアプリの市場競争に勝ち抜き、今後どのように金融事業基盤を確保していくのか。詳細については、オンデマンド配信をご覧ください。